日本の不動産鑑定評価制度において、不動産鑑定士が不動産の鑑定評価に際して求める価格は、基本的には「正常価格」とされていますが、必要に応じて、限定価格(隣地買収価格を評価する場合など)や特定価格(担保不動産付き不良債権を評価する場合など)を求めることができるとされています。
正常価格を簡単に説明すると、「合理的な自由市場を前提として、売主にも買主にも偏らない適正な価格である」といえるでしょう。では、なぜこのような評価が必要なのでしょうか。一般の商品は、私達人間によって生産され、売れれば売れた分だけ再生産が可能で、合理的な市場における自由な競争により、売主にも買主にも偏らない適正な価格が、自動的に市場で形成されています。しかし土地は、基本的に私達人間に作れるものではありません。そして、世界中に二つとして同じ場所は存在しないのです。つまり、不動産の取引は、このような土地の特性ゆえ、情報や取引市場が不完全であり、したがって、私達はある不動産の適正な価格がいくらかということを容易に知ることは難しいのです。他の一般の商品と同様に、不動産についても、適正な価格が表示されなければならないことは、バブル経済とその崩壊過程を振り返れば明らかでしょう。
また、一般に人が物の価値を判断するには、無意識にも「慣用性」「市場性」「収益性」の三面を考慮するといわれます。これを「価格の三面性」といいますが、不動産の鑑定評価においても、一般の評価における場合と同様に、この価格の三面性を評価に反映させようとする試みが行われています。これが、不動産の鑑定評価の三方式といわれるもので、「原価方式」「比較方式」「収益方式」から構成されています。
①原価方式
原価方式は、不動産の再調達に要する費用(費用性)に着目して不動産価格(賃料)を求める方式です。また、原価方式のうち、不動産価格を求める手法を「原価法」賃料を求める手法を「積算法」といいます。
原価法により不動産価格を求める場合には、まず、価格時点における不動産の再調達原価を求め、これに経年による減価修正を行って試算します。また、積算法により、賃料を求める場合には、まず価格時点における対象不動産の基礎価格を求め、これに期待利回りを乗じて得た準賃料に、必要諸経費等を加算して試算します。
②比較方式
比較方式は、不動産の市場性に着目して、不動産価格(賃料)を求める方式です。また、比較方式のうち、不動産価格を求める手法を「取引事例比較法」賃料を求める手法を「賃貸事例比較法」といいます。
比較方式により、不動産価格(賃料)を求める場合は、まず多数の取引(賃貸)事例を収集して、これらの事例について事情補正や時点修正を行い、さらに地域要因や個別的要因を比較考慮して試算します。
③収益方式
収益方式は、不動産の収益性に着目して、不動産価格(賃料)を求める方式です。また、収益方式のうち、不動産価格を求める手法を「収益還元法」賃料を求める手法を「収益分析法」といいますが、収益分析法は、鑑定評価実務において、ほとんど用いられていないのが実情です。
収益還元法により不動産価格を求める場合は、対象不動産が生み出す純収益を還元利回りで除して試算します。具体的には、対象不動産が将来生み出すであろう期待されるキャッシュフロー(純収益)の原価(将来価値)の総和です。
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