大阪市内主要オフィスエリアの賃料推移

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Busy street in a city with cars, buses, yellow taxis, and pedestrians along sidewalks between tall buildings

エグゼクティブサマリー

本レポートは、大阪市内の主要オフィスエリアの募集賃料を2010年から2026年最新公表分まで年次で整理したものです。年次値は、三幸エステートが公開する大阪市のエリア別月次時系列データを年平均化して作成し、2026年は1〜5月平均としました。実質値は、大阪府公表の大阪市消費者物価指数で2025年平均価格に実質化しています。三幸エステートは大阪市の相場データについて2010年以降のエリア別時系列データを公開しており、募集賃料は共益費込みの平均募集賃料として定義しています。

結論からいえば、2010年代前半はリーマン・ショック後の調整色が残り、2013〜2016年ごろに多くのエリアでボトムを付け、その後は回復局面に入り、2024〜2026年は再開発とグレードアップ需要を背景に上昇が加速しています。とくに梅田・堂島・中之島は2025年平均で20,467円/坪、2026年1〜5月平均で21,137円/坪に達し、主要エリアの中で最も高い水準です。2010年から2025年の名目上昇率は、梅田・堂島・中之島で約45%、新大阪で約34%、淀屋橋・本町で約31%でした。物価調整後でも、梅田・堂島・中之島は約25%、新大阪は約15%、淀屋橋・本町は約13%の上昇となり、単なるインフレだけでは説明できない伸びが確認できます。

他方で、募集賃料と成約賃料は同じ動きをしません。日本不動産研究所の大阪ビジネス地区の成約賃料指数は、2020年の125.0から2023年の108.7へ低下していますが、公開募集賃料は同期間に上昇しました。つまり、コロナ期は「表面賃料は粘着的だが、実勢成約条件は弱い」という乖離が拡大した可能性が高い、というのが公開一次資料から読み取れる実務上の重要点です。もっとも、主要エリア別・年次の成約賃料そのものを公開する一次資料は今回の調査では入手できず、差額の厳密な年次表はデータ未入手です。

現在の市場は、テレワークの定着で需要が消えたというより、「質への逃避」が強まった結果、都心・駅近・新築/築浅・高機能ビルに需要が集中している局面と整理するのが実態に近いです。CBREは2026年1〜3月期の大阪について、オールグレード空室率2.0%グレードA空室率3.0%グレードB賃料16,150円/坪とし、JLLは大阪CBDのAグレード賃料が2025年第2四半期で24,623円/坪、2025年第1四半期にはリーマン前ピークを再超過したと述べています。国土交通省のテレワーク調査でも、2025年度の雇用型テレワーカー割合は25.2%で、コロナ後に減少していた比率が再び増加に転じています。つまり、ハイブリッド化は続くが、オフィス不要化ではなく“選別強化”が進んだとみるべきです。

今後3〜5年は、2024〜2025年の大量供給を想定以上に吸収した反動で、供給の谷と需要の選別集中が重なる見通しが優勢です。日本不動産研究所は大阪ビジネス地区について、2025年の賃料指数+5.6%、2026年+6.7%、2027年+4.2%、空室率は2025年3.8%→2026年3.0%→2027年2.4%と予測しています。ただし、リスク要因としては、世界経済の下振れ、建築費高騰、再開発の工程遅延、テレワーク再拡大、立地劣後ビルの二極化が残ります。

前提とデータの扱い

今回の集計対象は、梅田・堂島・中之島、淀屋橋・本町、天満橋・谷町、心斎橋・長堀橋・なんば、南森町、新大阪です。これは、ユーザー指定の「梅田・本町・淀屋橋・心斎橋・難波・天満橋など」を、三幸エステートが公開しているエリア定義に合わせて再編成したものです。したがって、本町は淀屋橋と、心斎橋は難波と、それぞれ公開データ上は同一サブマーケットとして扱っています。賃料は募集賃料(共益費込)であり、成約賃料ではありません。

年次値の作り方は次の通りです。2011〜2025年は各年の月次平均、2026年は1〜5月平均です。2010年は公開系列の起点値を採用しています。実質賃料は、大阪府公表の大阪市消費者物価指数を用いて2025年平均価格に実質化しました。大阪府は1970年から最新までの月別・年平均CPIを公開しており、2025年の大阪市総合指数は111.7、2026年5月の大阪市総合指数は113.6です。

空室率については、三幸エステートの公開時系列では長期のサブエリア別系列が募集賃料ほど細かく公開されていないため、年次の長期比較は大阪市、北区、中央区、西区を代理変数として用いました。梅田・南森町は北区、淀屋橋・本町・天満橋・心斎橋・なんばは中央区の空室率を参考系列として見るのが実務上は最も近い整理です。より足元の細かな地区別空室率・賃料は三鬼商事が月次で公表しており、2026年5月時点では梅田2.70%、淀屋橋・本町3.53%、心斎橋・難波1.38%でした。

募集賃料と成約賃料の差については、今回の公開一次資料では、主要エリア別・年次の実額差をそのまま一覧化できるデータは入手できませんでした。公開されているのは、三幸エステートの募集賃料系列と、日本不動産研究所・三鬼商事等の成約賃料指数が別建てになっているケースが中心です。したがって本レポートでは、差の“方向性”は分析するが、主要エリア×年の厳密な差額表はデータ未入手と明記します。

主要年次表

下表の名目賃料は、三幸エステートの月次エリア別募集賃料を年平均化したものです。2026年は1〜5月平均です。

梅田南森町淀屋橋・本町天満橋・谷町心斎橋・なんば新大阪
201014,1219,88611,5688,62511,11910,050
201114,3359,61611,2468,53311,07610,060
201213,8059,58710,9518,41910,84310,048
201313,3719,52810,9198,30510,36310,000
201413,4089,11311,0468,18910,18410,027
201513,6499,16910,9148,20410,2389,805
201614,1088,87810,8798,04710,2579,936
201714,5679,05410,9928,29010,4709,775
201814,9439,28211,8288,37410,64710,138
201915,6149,22812,2108,63111,09210,818
202017,2599,44513,5118,81212,10711,747
202118,38010,74313,9139,22012,63213,309
202219,30011,23314,08810,08612,77013,114
202319,54411,30214,46610,13813,00812,842
202419,87111,37914,90310,05813,17012,847
202520,46712,07915,17810,88314,52313,422
202621,13712,76216,22110,91114,97113,999

下表は、上と同じ系列を大阪市CPIで2025年平均価格に実質化したものです。名目では全域で強い上昇に見えますが、実質でも梅田・堂島・中之島、新大阪、淀屋橋・本町の伸びが明確です。

梅田南森町淀屋橋・本町天満橋・谷町心斎橋・なんば新大阪
201016,43011,50313,46010,03612,93711,694
201116,76711,24713,1549,98012,95511,767
201216,14711,21312,8099,84712,68211,752
201315,60610,80612,7459,69412,09611,672
201415,26710,37612,5779,32411,59611,417
201515,38410,33512,3029,24711,54011,052
201615,91810,01712,2759,07911,57311,211
201716,45210,22612,4159,36311,82511,040
201816,75810,41013,2659,39111,94011,370
201917,42310,29713,6259,63112,37712,072
202019,27810,56115,0929,84313,52413,121
202120,65412,07215,63510,36114,19514,956
202221,15612,31315,44311,05613,99814,375
202320,73211,98915,34510,75413,79913,623
202420,49511,73615,37110,37413,58313,250
202520,46712,07915,17810,88314,52313,422
202620,90912,62416,04610,79314,80913,848

空室率の長期系列は、公開データの都合上、大阪市および区別の代理系列です。2010年代の空室縮小局面、コロナ後の一時反転、そして2024〜2026年の再タイト化が明瞭です。

大阪市北区中央区西区
201012.5911.1612.813.31
201112.6311.0413.0312.87
201211.28.6912.2811.48
201311.1811.3810.6810.99
20149.89.39.0810.27
20158.797.678.68.5
20167.145.477.136.92
20175.183.664.915.26
20183.782.463.73.79
20192.881.922.422.61
20202.861.732.612.57
20214.082.843.993.64
20224.73.754.274.06
20234.394.03.964.31
20244.174.613.693.91
20253.793.953.653.32
20263.432.943.713.2

要因分析

リーマン後の残響から2010年代の回復へ

2010〜2013年は、リーマン・ショック後の需給緩和がまだ色濃く残る局面でした。JLLは大阪CBDのAグレード賃料について、リーマン前ピークは23,574円/坪、2010年にはその約7割まで下落したと整理しています。実際、本レポートの募集賃料年次表でも、2010年代前半は多くのエリアで横ばいから下落で、実質値ではさらに弱く見えます。

その後の2014〜2019年は、典型的な回復局面です。JLLによれば大阪のAグレード賃料は2014年第3四半期から22四半期連続で上昇し、2019年末にリーマン前のピーク水準を回復しました。表面募集賃料でも、梅田・堂島・中之島は2014年13,408円/坪→2019年15,614円/坪、淀屋橋・本町は11,046円/坪→12,210円/坪へ上昇しています。

2010年代後半のインバウンドと再開発の影響

2010年代後半の大阪では、インバウンド拡大と都心再開発の進行が、オフィス市場の地価・賃料期待を押し上げる背景になりました。大阪府資料では、来阪外国人旅行者数は2019年に11,525,467人、大阪観光データハブでは2024年に14,639,000人と、コロナ前を超えて回復しています。インバウンド需要そのものはオフィス需要の直接因ではありませんが、とくにミナミ側の街区価値・商業集積・回遊性の改善を通じて「心斎橋・難波圏」の相対的な魅力を押し上げたと解釈するのが妥当です。

再開発の面では、梅田が決定的に強いです。JLLは、2024年の大阪Aグレード供給が約21万㎡で、2023年までの既存ストック比で約1.3倍に達したとし、うめきた2期のグラングリーン大阪南館のオフィス約11万㎡が2025年3月に先行開業したと説明しています。大阪府も、うめきた2期が2024年9月に先行まちびらきを迎えたとしています。大量供給が通常なら賃料抑制要因になるところを、大阪ではむしろ高品質供給が需要を呼び込み、都心回帰を強めた点が2024〜2026年の特徴です。

コロナ禍とテレワークの影響

コロナ禍では、実勢成約賃料が先に低下し、募集賃料は粘着的に高止まりしやすいという典型的なオフィス市況の特徴が大阪でも確認できます。日本不動産研究所の大阪ビジネス地区成約賃料指数は2020年125.0→2021年115.5→2022年115.2→2023年114.7と低下しました。一方、三幸エステートの大阪市募集賃料年平均は、同時期に11,864円/坪→12,856円/坪→13,210円/坪→13,203円/坪でした。表面賃料は維持されても、実勢は弱いという構図です。

テレワークは需要をゼロにしたわけではなく、需要の質を変えたと見るべきです。国土交通省によると、2025年度の雇用型テレワーカー割合は25.2%で、コロナ後に減少傾向だったものが再び増加に転じました。CBREとJLLの大阪レポートでも、足元の需要は拡張移転、グレードアップ移転、より良い立地への移転が中心とされており、質の低い在庫ではなく新築・築浅・高機能な中心業務地ビルに需要が集中しています。

2024年以降の再加速

2024〜2026年は、大阪オフィス市場の「第二の加速局面」です。CBREは2024年について、新規供給が既存ストックの7%に相当したにもかかわらず、2024年のネットアブソープションは調査開始以来最大の81,000坪だったとしています。JLLは2025年第2四半期のAグレード賃料を24,623円/坪とし、前年同期比8.5%増で東京を上回る伸びと述べています。大阪府の労働力調査では、2025年の就業者数は4,816千人で前年より74千人増でした。つまり、大量供給が賃料下落につながるのではなく、供給そのものが需要創出とグレードアップ移転を引き起こしているのが現在地です。

グレード別と募集賃料・成約賃料

公開Web一次資料から確認できる大阪のグレード別賃料は、AとBが中心です。JLLは大阪CBDのAグレード賃料を2025年第2四半期24,623円/坪とし、CBREは2025年第4四半期のグレードA賃料26,950円/坪、さらにCBREの2026年1〜3月期記事ではグレードA想定成約賃料28,000円/坪、空室率3.0%としています。CBREの同四半期レポートでは、グレードB賃料は16,150円/坪で、2008年Q1のピークを上回ったとされています。したがって、少なくともA/Bでは、2025〜2026年にかけて過去ピーク更新が進行中です。

一方で、大阪のGrade C賃料を年次で連続的に確認できる公開一次資料は今回の調査では入手できませんでした。したがって、グレード別はA/Bは公開確認、Cはデータ未入手と整理するのが正確です。ユーザー要件の「A/B/C」に対しては、公開一次資料ベースで無理に補完せず、欠落を明記する方が実務上も適切です。

募集賃料と成約賃料の差については、“額差”より“方向差”の把握が現実的です。三幸エステートは募集賃料を入手した募集条件の平均値と定義し、日本不動産研究所は成約事例に基づくヘドニック型賃料指数を用いています。このため、賃料改定のタイミング、フリーレント、内装負担、ビル属性調整などが反映される成約系列の方が、市況悪化局面では先に弱含みやすいです。コロナ局面で大阪の成約賃料指数が下がった一方、募集賃料が高止まりしたのはその典型例です。公開一次資料から言える実務的な示唆は、大阪オフィスでは表面賃料だけを追うと市況の弱さを見誤りやすい、という一点に尽きます。

見通しと結論

大阪ビジネス地区の中期見通しは、現時点では比較的強気です。日本不動産研究所は、2025年の賃料指数+5.6%、2026年+6.7%、2027年+4.2%、2028年+2.8%を見込み、空室率は2025年3.8%→2026年3.0%→2027年2.4%→2028年2.0%まで低下すると予測しています。JLLも、2030年まで新規供給が際立って限定的であるため、タイトな需給が続く可能性を指摘しています。現在の月次実績でも、三鬼商事の大阪ビジネス地区空室率は2026年5月3.04%まで低下しており、方向感としては予測と整合的です。

ただし、リスクは明確です。第一に、テレワークの再拡大やオフィス面積縮小が起これば、立地やビルスペックの劣る在庫に空室が滞留しやすくなります。第二に、建築費高騰と開発遅延は、新規供給のスケジュールや賃料設定に影響します。第三に、世界経済・金利・企業収益の下振れは、拡張移転需要を鈍らせます。日本不動産研究所自身も、世界経済の下振れリスクへの注意を促しています。つまり、大阪全体では上昇基調でも、勝つのは都心・大型・新築/築浅・高機能ビルであり、二極化はむしろ強まるというのが、今後3〜5年の最も実務的な見立てです。

最終的な要点を一文でまとめると、大阪オフィス賃料は2010年代前半の調整期、2010年代後半の回復期、コロナ期の実勢弱含み、2024年以降の再加速局面を経て、現在は「質への集中」による上昇相場に入っている、ということです。エリア別では、梅田が価格牽引役、淀屋橋・本町がそれに続く都心実務エリア、心斎橋・なんばは2024年以降の強含みが目立つ追随組、天満橋は相対的に落ち着いた推移と整理できます。

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